TOP > COLUMN > その九 「良心くん、みちのくで子供たちのアイドルに!?」  

その九 「良心くん、みちのくで子供たちのアイドルに!?」  

 雑誌ビーパルのイベントに出かけた。
 場所は青森県八戸市の種差海岸(たねさしかいがん)。風光明媚な景色が広がる自然豊かな海岸で、冷たく湿った風が吹くやませの影響により、海岸なのにニッコウキスゲやサクラソウなどの高山植物が咲く。ハマヒルガオやハマナスなどの海浜植物はもちろん、この地でしか見られないハチノヘトウヒレン、タチドジョウツナギといった固有種もある植物の宝庫である。
 2013年5月には三陸復興国立公園に指定。被災地の復興にもつなげようと、首都圏から遠く離れた北の海岸でイベントが開催されることになった。
 種差海岸を訪れるのは半年ぶりになる。種差海岸は八戸の蕪島神社(かぶしまじんじゃ)から福島県松川浦まで、東日本大震災の被災地をつないで整備が進められている『みちのく潮風トレイル』(*)のコースに含まれており、アドバイザーの立場で関わっている僕は蕪島神社から岩手県の田野畑村(たのはたむら)までの区間をのべ7日間かけて歩いているのだ。
 今回はイベントのみの参加なので、良心くんも旅に同行させることにした。
 イベント会場の種差海岸に行く前に、まずはみちのく潮風トレイルの北の起点である蕪島神社を再訪。 

 蕪島は海にこんもりと突き出た陸続きの小さな島で、島全体が神社になっている。神社の奥はウミネコの繁殖地であり、天然記念物に指定されているほど貴重な場所だが、ウミネコは8月には島を離れていってしまうため、9月下旬のこの時期は閑散としていた。
 でも、ウミネコの石像が境内にあったので、良心くんと記念写真を撮る。頭の高さがほぼ同じ。良心くんの顔が突っつかれそうなツーショットが微笑ましい。

 蕪島神社を参拝したあとは、みちのく潮風トレイルに含まれる遊歩道を少し歩いて、イベント会場の種差海岸のキャンプ場へ向かう。
 キャンプ場に指定されている一帯は、天然芝に覆われた美しい海岸である。キャンプ場はフリーサイトで、どこにテントを張ってもかまわない。周囲は植物の宝庫。海は青く、天然芝のじゅうたんは寝転びたくなるくらい心地いい。全国のキャンプ場ベスト5にランクインさせたい最高のキャンプ場である。
 首都圏から遠いため、イベント参加者は少ないが、それぞれが心地いい場所を探して自由にテントを設営している。バックパッキング向けのコンパクトなテントもあれば、タープを張ってイスやテーブルを持ち込んでいるファミリーキャンパーもいる。クルマの乗り入れが禁止されているため(荷物は駐車場からリヤカーで運ぶことができる)、キャンプ場はカラフルなテントだけが点在する。
 ビーパルのイベントに僕は25年以上関わってきているが、参加者のキャンプスタイルは道具の進歩とともに、さらに熟成したと思う。酒を飲んでバカ騒ぎだけをする下品なキャンプは、ビーパルのイベントでは見かけない。

 イベントの講師を務める僕は、参加者とともにみちのく潮風トレイルの一部を歩いた。
 キャンプサイトから北へ向かって海岸沿いの遊歩道を歩く3時間程度のプログラムだ。途中の白浜海水浴場から大須賀海岸(おおすかかいがん)までの砂浜は、歩くとキュッキュッと音がする鳴き砂になっている。しかし季節によるのか、湿り気具合に影響するのか、想像するような音は聞こえない。参加者の半分近くは靴を脱いで裸足になって波打ち際を歩いた。これといったメインイベントがあるわけではなく、みんなで一緒に歩くだけのプログラム。こんなんでいいのかな、と講師の僕は思うけど、参加者の感想を聞くかぎりはそれなりに楽しめているようだ。考えてみれば、歩く旅もこんなようなものだ。ドラマチックな出会いも、サプライズもあまり起きず、ただ淡々と自分の足で歩いていく。でもつまらなくはない。それが歩く旅の魅力かもしれない。
 夜はトークショーを行ない、国内外のロングトレイルを紹介したあと、最後に「じつは旅のパートナーを連れてきています」と、良心くんを登場させた。
 オーッという歓声が起きた。とくに子どもたちは興味津々の眼差しで良心くんを見つめている。
「良心くんは全国を修行中です。良心くんにさわって、みなさんの良心を良心くんに注いでください」
 そう語ったら、トークショー終了後に子どもたちが良心くんの前に並んで、順番に良心くんを撫で回した。さわった子は満面の笑顔だ。翌朝、担当編集者が「昨日の夜、隣のテントの子どもが『良心くんにさわった、さわった!』っておおはしゃぎしてましたよ」と口にしていたけど、子どもたちに良心くんがこれほど人気があるとは思わなかった。
 イベント終了後、荷物をすべてクルマに積み終えたら、「すみません、最後にもう一度、良心くんにさわらせてください」と親子がやってきた。
 子どもたちは良心くんにさわったあと、記念写真を撮って大喜びだったが、こんなに喜んでもらえるなら、これからはできるだけイベントにも良心くんを連れ出そうと思った。
 手垢で良心くんの顔は汚れていくだろうけど、それはもう気にしないことにする。その手垢が良心くんの勲章であり、良心が注がれた証拠なのだから。

photos by sherpa saito

*みちのく潮風トレイル公式サイト http://www.tohoku-trail.go.jp/

COLUMN

Buisiness TODAY” 
東京 鳥 散歩” 
シェルパ斉藤の“ニッポンの良心” 
こんにちはさようならHOLARADIOS〜矢口清治のラジオDJ的日々〜” 
きっこうのハッピー・ゴー・ラッキー人生 〜セカンドライフを社会貢献で楽しむ徒然日記〜
内田正洋 内田沙希 シーカヤックとハワイアンカヌー 海を旅する父娘の物語
ムーンライトジョーカー 三浦麻旅子
スタッフ募集