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第19回 愛しのアナ
    <前編:映画『ピッチ・パーフェクト』がよかったのは>

ピッチ・パーフェクト
5月29日より大ヒット公開中の「ピッチ・パーフェクト」。
配給:武蔵野エンタテインメント

 2015年5月29日に日本でも公開となった『ピッチ・パーフェクト』は、ぜひお薦めしたい映画だ。アメリカでは遡ることおよそ2年半の12年9月、前評判はそれほど高くなかったようだが、1週目の興行収益において『96時間/リベンジ』と『モンスター・ホテル』に次ぐ第3位を記録している。最初の週末の観客は55%が25歳以下で、81%が女性だった。どんな話なのか。  大学を舞台とし、アカペラ・サークルの全米大会制覇への挑戦を縦軸に、親子関係、恋愛、友情といった、もしかしたらかなりありきたりかもしれない要素を散りばめて描く青春映画。うわ、大雑把ですみません。  ディスク・ジョッキーとしてそそられた興味は、やはりポップ・ヒットの数々が劇中でどう出てくるかにあった。12年という制作時の時期設定を反映しつつ(前半の鍵となる場面のひとつーベッカとクロエがシャワー・ルームで接触するときのきっかけがデヴィッド・ゲッタの曲なのは象徴的)、アカペラ・シーンでレパートリーとなる歌は新旧絶妙に取り入れられていて、ラップ/ヒップホップ時代においてコンテンポラリーなヒットが大衆の心にどんな風に存在しているのかが自然にわかる。大ヒットしたTVシリーズ『glee/グリー』にも同様のことが言えるかもしれない。それは、日常的にラジオを賑わすポップスが幅広くきちんと人々に届いて、そこに留まり続けているからなんだろうなと思った。そして、それはこうした作品がちゃんと楽しまれることの大前提なのであろう。  劇中で流れるポップ・ミュージックが果たしたものと同様に、言わば横軸としてストーリーの求心力に彩りとまとまりを与えたのは、女性アカペラ・グループ=バーデン・ベラーズのメンバーたちの眩しすぎるキャラクターだ。保守と革新のような異なる価値観を対立要素として据えつつ、共通の目標を抱いて共闘する中で気づかなかった個性と魅力を認め合い、やがて大切な仲間として互いにかけがいのない存在となっていく。またもや、もしかしたらかなりありきたりかもしれない筋立てにあって、女性たちのヘンテコリンさが際立つ人物描写は、この作品の特筆点だ。
ベラーズ
 ベラーズのメンバーは7人。それぞれ均等に掘り下げるわけではないが、人種やファッションなどのルックス、もちろん言動を通じて各人のそれまでの歩みや抱えている葛藤や喜怒哀楽の着火点を鑑賞者に想像させる、さり気なく丁寧な演出がとても活きていて、結果としてチーム全体に強い愛着を持たせる見事なバランスがとられている。大学という人生のモラトリアムにあって、ダサさが基盤となっている空気感(体験者には通じますよね?)をスッパリと切りまくるセリフ回しの巧さは実に爽快。ここではちょっと堅苦しく語ってしまってるけど『ピッチ・パーフェクト』は、スピード感もばっちり伴う本当に笑える秀逸なコメディだ、念のため。  そこで主演のアナ・ケンドリック。メイン州ポートランド生まれ。98年ブロードウェイでデビュー。03年の『キャンプ』から映画に進出。『トワイライト』シリーズのジェシカ・スタンリー役を得て注目され、09年にジョージ・クルーニーと共演した『マイレージ、マイライフ UP IN THE AIR』でアカデミーやゴールデングローブの助演女優候補に。12年のデヴィッド・エアー監督/ジェイク・ギレンホール、マイケル・ペーニャ主演のコップ(警官)ものの秀作でシリアスかつずしんと重い『エンド・オブ・ウォッチ』でも好演。そして、14年の『イントゥ・ザ・ウッズ』のような大作にも呼ばれ、いよいよ大物感も出ている女優だ。『マイレージ、マイライフ』のナタリー役での、優秀ゆえに小生意気で折れた時のか弱さがたまらなく愛しかったキャラクター造形には、すっかり魅了された。出演した役柄をそのまま本人に重ねるのは、単純すぎるけど自然なこと(そうか?)。ナタリーは、『ピッチ・パーフェクト』でのベッカとして再び、アナ・ケンドリックを”すぐそこにいる女性”にしている。そう、私は彼女のファンになったのです。
アナ・ケンドリック
 『ピッチ・パーフェクト』がアメリカで結果的にスリーパー・ヒット(あまり目立たなかったけど確かに当たった)となったのは、息の長い動員を果たせたから。そして、そのために重要だったのが「Cups」という曲の存在だ。

次回、 愛しのアナ<後編:ラスト・ナンバー至上主義>に続く

(2015.06.10)

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