TOP > COLUMN > HOLA R♡ADIOS 〜矢口清治のラジオDJ的日々〜

こんにちはさようならHOLARADIOS~矢口清治のラジオDJ的日々~"

第15回 グラミー賞に思う 前編 忘れじのジョージ・ベンソン

 2014年12月5日、第57回グラミー賞のノミネーションが発表された。私がグラミー賞について初めて耳にしたのは、第18回にあたる75年度(発表は76年2月28日)だった。当時ラジオ関東で放送していた(またもや)『全米トップ40』内でやや時間を割いて紹介されたのが、アメリカで最も歴史と権威がある音楽賞とされるグラミー賞だった。それほど世間のことに興味関心を抱かない16歳=高校1年生の私はしたがって様々な報道に目を通すタイプではまったくなかったが、その頃グラミー賞という音楽イヴェントに関して、他に紹介しているものに遭遇しなかった。主要結果だけが簡単に新聞記事になる程度だったのではないだろうか。もちろんすでに40年近くも前のこと。『トップ40』でもどれくらい詳しく伝えてくれていたか、記憶があまり定かではない。
 
 その時の最優秀レコードがキャプテン&テニールの「愛ある限り」。4週にわたって全米第1位を記録し75年の年間チャートでもNo.1に輝く、つまりこの年最大のヒットだった。また、最優秀アルバムを獲得したポール・サイモンの『時の流れに』も「恋人と別れる50の方法」の全米No.1を輩出し、それ自体も全米アルバム・チャートの王座に輝いている。なんだ、やっぱり人気者の大ヒットが選ばれるのかと、若輩はこの時点でグラミー賞を結構ナメた、と思う。

 だが、翌76年度の第19回(77年2月19日発表)の最優秀レコードによって、グラミー賞の”一筋縄ではいかなさ加減”を、私は思い知る。76年8月から9月にかけて全米第10位まで上昇したその曲のことは覚えていたが、特別好きだった訳ではなく、繰り返すが高校生だったので、味わいや深みよりも憶えやすさとかわかりやすさこそがヒット曲の重要性であって、ポピュラー・ミュージックの大海のことなどつゆ知らず、小さく浅いヒット・ソングのプールをチャパチャパと泳いでいたような頃だったのだから、むしろこう思っていたー”暗い歌だなあ”。それがどれくらい経ってからだろうか、曲を書いたのがかのレオン・ラッセルで、カーペンターズもアルバム『ナウ&ゼン』(73年)で取り上げていた佳曲であり、”こんな寂しいゲームに興じている わたしたちは本当に幸せなのだろうか”と始まる歌詞によって、風化していく愛の佇まいを描き出したとても深い作品である、と知るに到るのは。
 手法としてあまり私には馴染みのなかったスキャットのフレージングを織り込んでディープに歌われた彼のヴァージョンでこそ、その曲「マスカレード」は高い評価を獲得した。歌ったのは、ここ日本では「マスカレード」も収録の大ヒット・アルバム『ブリージン』とそのタイトル曲によって、フュージョン・ギタリストの大スターとなり、ソフト&メロウの権化として君臨する天下のジョージ・ベンソンであった。
 ただ暗い歌だと思っていただけに予想もしなかった最優秀レコード獲得から、私はグラミー賞を却っておもしろく感じ始めた。

 77年度(第20回=78年2月23日発表)では、ロック史に刻まれる名曲「ホテル・カリフォルニア」(イーグルス)が最優秀レコード、歴史的メガ・セールスとなった『噂』(フリートウッド・マック)が最優秀アルバムに選出され、その頃はすでに全米チャートどっぷりの日々であった故に、一端<いっぱし>に”まあ、解るな”とか思い始めていた。78年度からは『全米トップ40』でグラミー賞の受賞結果をラジオで紹介する立場になる。

ジョージ・ベンソン
ワーナー・ブラザーズ在籍時の作品を厳選選曲したベスト・アルバム
『アルティメイト・ベスト/the greatest hits of all』 (WPCR12203)
「マスカレード」も収録されています。

 それにしても「マスカレード」。日本で、ルックスが映画評論家の故・水野晴郎さんにくりそつだとか、カール・ルイスの最大のライヴァルだったカナダ(出身はジャマイカ)の陸上選手ベン・ジョンソンと字面でも発音しても紛らわしい、といった類いの戯れ言でもお馴染みになる名ギタリストが、グラミー賞のおもしろさを知るきっかけを作ってくれた事実は揺るがない。私にとってまさしく、忘れじのジョージ・ベンソンなのだ。

 次回、後編はそもそもグラミー賞とは、そして記録と記憶に残るグラミー賞といった内容になる予定、です。

(2014.12.22)

前の記事へ 次の記事へ

過去の記事索引はこちら

COLUMN

Buisiness TODAY” 
東京 鳥 散歩” 
シェルパ斉藤の“ニッポンの良心” 
こんにちはさようならHOLARADIOS〜矢口清治のラジオDJ的日々〜” 
きっこうのハッピー・ゴー・ラッキー人生 〜セカンドライフを社会貢献で楽しむ徒然日記〜
内田正洋 内田沙希 シーカヤックとハワイアンカヌー 海を旅する父娘の物語
ムーンライトジョーカー 三浦麻旅子
スタッフ募集