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シェルパ斉藤の"ニッポンの良心"

その十八「しまなみ海道の地蔵パワースポット!?」 

 良心くんを連れて、しまなみ海道に出かけた。
 本州の尾道と四国の今治を結ぶ全長70kmのしまなみ海道は、自転車の旅人にとって憧れの場所だ。自転車の楽園といってもいい。
 瀬戸内海の穏やかな海岸が連続するコースは景色が美しく、ほぼフラットで走りやすい。それぞれの島に架かる橋は自転車専用の道路が区分けされていて、安全かつ快適に走行できる。各島それぞれに見所があって、寄り道したくなるスポットが満載だし、自分の足で海峡を越えて本州から四国へ渡る達成感も味わえる。

 自転車の旅にとって理想的条件がてんこ盛り状態だが、しまなみ海道の魅力はコース設定だけではない。お遍路を接待する習慣が受け継がれる四国と同じく、よそから来た旅人を温かく迎えてくれるおもてなしの心が人々に根づいている。
 しまなみ海道のほぼ中間、生口島(いくちじま)の駐車場には『瀬戸田のおばさん会』と書かれた垂れ幕があって、地元のミカンが用意されていた。ミカンの両脇には手づくりの等身大人形も並んでいる。
「私ひとりじゃ、寂しいからね。このコたちは私の友達よ」と、そこにいた年配の女性は笑い、「ほら、たくさん持っていきなさい」と、僕にもミカンを振る舞ってくれた。

 これぞ、ニッポンの良心。
 僕が良心くんを披露すると、彼女は予想どおり「まあ、かわいいお地蔵さん」(地蔵じゃないんだけどね)と、良心くんの頭を優しく撫でてくれた。

 良心くんが何者か彼女に説明していると、軽自動車に乗った別の女性がやってきた。やはり良心くんに興味津々である。
「このコは頼めば作ってもらえるの?」
 いや、どうなんだろう? 作者の萩原さんに聞いてみなければわからないけど、注文の打診は初めてのケースである。
「地蔵鼻のお礼参りに作ってもらえるのかしら、と思ってね……」
「はあ?」
 首をかしげる僕に彼女は説明してくれた。隣の因島(いんのしま)に地蔵鼻という史跡があって、そこには願い事がかなったら地蔵を作ってお礼参りをする習慣があるという。以下は、地蔵鼻に設置された説明書きの要約である。

「その昔、因島の城主が琴の修行で都へ船で向かう周防の美しい娘に一目惚れし、島にとどまるように命じた。しかし娘には周防に思いを寄せる若者がいる。命令に応じない娘に城主は腹を立て、その娘を浜で切り捨ててしまった。すると毎晩、娘のすすり泣く声と琴の音が聞こえるようになった。眠れなくなった城主は渚の自然石に地蔵尊を彫り、娘の霊を供養したという。それが地蔵鼻(鼻は西日本で岬を意味する)の由来で、その話を耳にした周防の若者は、地蔵鼻に来て娘の後を追って海に身を沈めてしまった。すると地蔵の目から涙がこぼれ落ち、それは小石になって地蔵鼻の周囲に散らばった」とのことだ。

 それからというもの、地蔵鼻で祈願して娘の思いが込められた小石を持ち帰れば恋が成就すると噂になり、縁結びや子授かり、安産などの願いを込めて多くの若い女性が地蔵鼻を訪れるようになったという。
 彼女の友人の娘さんも地蔵鼻で祈願したら子を授かったそうで、そのお礼参りの地蔵として良心くんを作ってもらえるだろうか、と彼女は言うのだ。
「どうかなあ……」
 地蔵と違って木彫りの良心くんを海辺で雨ざらしにするのは違うんじゃないかな。
 とりあえずどんな場所か見てみようと因島の地蔵鼻へ行ってみることにした。

 その光景は想像を越えていた。観光パンフレットに出ているような名所ではないので、たいしたことないだろうと高をくくっていたものだから、正直驚いた。
 地蔵鼻の手前の歩道に大小さまざまなお地蔵さんがびっしりと並んでいる。何体あるのか、数えられないくらいの量だ。顔がわからないほど風化した古い地蔵もあれば、最近のものと思える愛らしい地蔵もある。
 詳しい人数はわからないけど、この地蔵の数に相当する女性たちがここで祈願して、やがて成就してそのお礼参りをしたということなのだろう。お礼参りの地蔵が増えるたびに、地蔵鼻のパワーは増しているのかもしれない。
 そのパワーを良心くんにも授けようと、僕は良心くんをお地蔵さんたちの列に並べた。
 違和感はない。でもここに置いていくのは違うと思う。良心くんは神に捧げる供物ではなく、身近な場所で人々の幸せをアシストする存在になってもらいたい、と僕は願っている。
 最後に地蔵鼻に良心くんを置き、我が息子たちの恋愛が成就することを祈願して、地蔵鼻を離れた。

photos by sherpa saito

*瀬戸内しまなみ海道振興協議会のホームページ  http://www.go-shimanami.jp/

*因島観光協会のホームページ http://innoshimakanko.jp/jizoubana.html

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