TOP > COLUMN > ムーンライトジョーカー 三浦麻旅子

ムーンライトジョーカー 三浦麻旅子

第7回 マルチサーカス再訪

昼間のバスで。二度目のプシュカール。

やけにスピードが出ているな〜。と思っていると、突然ドシンッ!と前の座席に打ちつけられた。急カーブを曲がりきれずに木にぶつかって止まったのだ。
私はGジャンを着ていたのでかすり傷で助かったけれど、谷底を見るとそんなに時間が経っていない様子でバスが落っこちて転がっている。。。この木がなければ。と想像すると何とも恐ろしい。

キャメルフェアの砂丘に二年前と同じマルチサーカスのテントを見つけた。嬉しい再会。
老道化師は亡くなったとボスの奥さんが教えてくれた。

フェアを渡り歩き、転々と旅の続く小規模なファミリーサーカス家業では、郵便局の私書箱で次の興行の場所やスケジュールなどのやり取りをしているようだった。
今回は他のサーカスから助っ人が来ていて、火芸や、竹馬の足長おじさんなど少し派手な出し物が増えていた。
それが商魂逞しい移動サーカスというものか。

彼はいないのではないかと少し心配になったけれど、カリヤは変わらずに私をジョーカーの顔で迎えてくれて嬉しかった。

調理場で小火を出してしまったオネエの賄いさんが攻められたり、ショーの間に泥棒が入って一騒動あったり、おばあさんはいつも咳き込んで騒ぐ子供達にイライラしていたし、どこか不穏な空気が漂っていて、痴話喧嘩も絶えず。そんな空気にヘキエキしていると、カリヤはいつも変わらず私をお茶に誘って連れ出してくれた。

住居テントには自慢気に大きなテレビが置かれて、暇があればみんな集まっていた。子供や女性達は歌い踊るインド映画の俳優さんに夢中で、真似していた。華やかさに憧れ夢見るのはどこも一緒だ。

自転車乗りのジェスリ母さんの三兄弟サリムとヤシンとカリム。
長男のサリムは絡まりそうなカセットテープでショーに合わせて音楽を出し、道化も演じ。空いた時間にはコマ回しの練習。しっかりと家族を支えているようで、たのもしく見えた。
12歳になってカラダも成長してきたシーマとシーラは以前よりも、ぽつんと遠くを見ている時間が増えた。この旅が終わって南インドに戻れば学校に行って勉強したいと話していた。
シーラのふとした行動を見ているとサリムに恋をしているみたいで、思春期の鮮やかな感覚にキュンとして微笑ましかった。
ボスが市場へ買い出しに行った日には夕食に川魚の唐揚げが出た。
ちょっとした贅沢。骨っぽいけれどマサラ風味でカラッと揚がっていて、美味しかった。

満月も過ぎショーも幕を閉じ、皆で着飾ってプシュカール湖にお参りに行って、サーカスの全てをトラックに積み込み、名残惜しく彼らを見送る時には、心の片隅で、一緒に乗り込まなかった事を後悔する気持ちがわいた。
ただ、どこかで小さな綻びも感じていた。

前の記事へ 次の記事へ

COLUMN

Buisiness TODAY” 
東京 鳥 散歩” 
シェルパ斉藤の“ニッポンの良心” 
こんにちはさようならHOLARADIOS〜矢口清治のラジオDJ的日々〜” 
きっこうのハッピー・ゴー・ラッキー人生 〜セカンドライフを社会貢献で楽しむ徒然日記〜
内田正洋 内田沙希 シーカヤックとハワイアンカヌー 海を旅する父娘の物語
ムーンライトジョーカー 三浦麻旅子
スタッフ募集