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ムーンライトジョーカー 三浦麻旅子

第4回 マイネームイズジョーカー

マルチサーカス通いの日々、昼間ショーがないときは子どもたちと過ごした。

メラは甘えん坊、インド映画が大好きでいつも私のカメラを見つけるとポーズをとった。
楽屋裏で飼っていたふわふわしたカワイイ子犬が大好きでずっと抱えていた。
時々激しい気性を露にする彼女は、ある時何があったのか癇癪を起こして突然子犬を投げつけた。砂の上に叩き付けられた子犬はキャンッ!と鳴いてそのまま動かなくなった。
どうしたの?と驚いたメラは、悲しい困った顔をして一生懸命に子犬をさすっていた。
仮死状態だったのだろう、子犬はなんとか息を吹き返して、ほっとした。
少しは優しくなるかと思ったら、彼女のワガママっぷりはそれからも変わらなかった、子供だから直ぐに忘れてしまったんだろうけど、生と死を目の当たりにした強烈な体験だった。

またある日。人の少ない楽屋裏テントの前で小人の団員パサンとふたりきりになった。
気が付くと彼は私を見つめていて、目が合うと私に向かってひざまずいて、何かと思ったらプロポーズされてしまった。
思ってもいない出来事に驚いて、頭の中が真っ白で、探しても何を言ったらいいのかコトバが見つからなくて黙り込んだ。
そうだ。煙草も吸うし恋愛だってする大人の男なのだ。
どうしたのかは覚えていないけれど、私はただあやまっていた気がする。
多分誰かが戻ってきてその場のフリーズした空気が流れ出したのだろう。
浅はかな自分がショックだった。

一目惚れした道化師のカリヤは、暇を見つけると、近くを散歩したり、知り合いの茶屋でチャイをご馳走してくれたり、観覧車に乗ったりして私をデートに連れ出してくれた。
どうやって話をしたかは、今となっては覚えていないけれど、夢みたいな時間だった。
改めて彼に名前を聞いてみると勿体をつけて「マイネームイズジョーカー」と笑った。
それがまた私を夢見心地にさせた。
そして、私がしていたおもちゃの指輪を、家で待っている奥さんにプレゼントしたいから自分の指輪と交換してくれないかと言ってきた。
デートの時間が楽しくて、すっかり恋していた私は分かっていても切なかった。

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