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第16回 グラミー賞に思う 後編 忘れじの”Evergreen”

 2015年2月8日(日本時間では9日)、2014年度グラミー賞の受賞結果が発表され、セレモニーが米CBS-TVによってロサンゼルスのステイプルズ・センターから生中継される。迎えて第57回。その第1回は、58年に発表された作品を対象に59年5月4日にやはりロサンゼルスはビバリー・ヒルトン・ホテルのグランド・ボールルームで開かれている。
 
 グラミーとロサンゼルスは、密接なつながりがあった。きっちり60年前となる1955年にハリウッドの美化委員会が、観光名所として名高いウォーク・オブ・フェームに名を刻むスターたちの音楽界からの人選をメジャー・レコード会社に依頼したことをきっかけに、その会合で映画のアカデミー賞に相当するイヴェント開催へと話が展開した。
 
 2年をかけて、57年に全米レコード芸術科学学会=NATIONAL ACADEMY OF RECORDING ARTS & SCIENCESが設立され、これを主宰団体としてグラミー賞、正式名称NARAS ACHIEVEMENT AWARDSがいよいよ始まる。GRAMMY=グラミーの呼称は一般公募で決まった。トロフィーが蓄音機=グラモフォンを象(かたど)った所から、ニューオーリンズ在住の女性の案が採用されたとのこと。
 
 グラミー賞の目的は、ハリウッドの振興であり、音楽業界の発展、録音/映像技術の学術的研究のためなどとされる。後発のアメリカン・ミュージック・アワードやMTV VIDEO MUSIC AWARDSのように一般の人たちによる選出ではなく、ナラス会員、つまり音楽業界人が投票するので、具体的なヒット状況やアーティストの人気ぶりとは必ずしも結果は一致せず、それがグラミーの独自性となってきた。とはいえ、60年代までは録画放送、71年から生放送でTV中継され続けているセレモニーの模様は当然映像コンテンツとしての魅力を求められるわけだから、やはり一般的な認知度はある程度影響している気もする。
 
 全会員が投票権を持つ主要4部門がレコード、アルバム、ソング、新人。分野/部門は音楽ジャンルや録音/映像からジャケット・デザイン、ライナーノーツなど多岐にわたり、今回は29分野83部門の受賞作品が予定されている。
 
 毎年グラミーの授賞式が近づくと、予想と共にこれまでで記憶に残っている年や過去の記録についても、ラジオなどコメントする機会が生まれる。よく話題に出るのは、いちアーティストによる同一セレモニーでの最多受賞記録。私の認識では、マイケル・ジャクソンとサンタナの8部門だ。マイケルが席巻した第26回(83年度)のTV放映は、日本におけるグラミーの知名度を一躍に高めた。アルバム『スリラー』関連で8つを受けたのに加え、最優秀児童向けレコード部門での『E.T.ストーリーブック/E.T.:THE EXTRA-TERRESTRIAL』(マイケルがE.T.と語り合うレコード)。あれ、計9じゃね? 実は『スリラー』で最優秀録音部門を獲ったのはエンジニアのブルース・スウェディーンであって、マイケルは受賞者ではない。マイケルとしては8。
 
 第42回(99年度)はアルバム『スーパー・ナチュラル』関連に、レコード、ソング、アルバム、ポップ・グループ、ポップ・ヴォーカル、ポップ・インスト、ロック・グループ、ロック・インスト、ロック・アルバムの各部門が与えられた。あれ、計9じゃね? 実はソングの「スムース」については、作者のイタール・シュールとロブ・トーマスが受賞者。サンタナとしては8。
 
 第45回(02年度)におけるノラ・ジョーンズもまた、デビュー作関連で候補となった8部門すべてを獲得したことが話題を集めたものの、主要部門に関してソングの「ドント・ノウ・ホワイ」は作者ジェシー・ハリスが受賞者であって彼女ではない。同様に『ノラ・ジョーンズ』を制作したアリフ・マーディンがプロデューサー部門の受賞者であって、ノラの受賞数はレコード、アルバム、新人、ポップ女性、ポップ・アルバムの5つだ(それでも充分すごいけど)。そのノラも参加して多いに寄与した第47回(04年度)での『ジーニアス・ラヴ~永遠の愛』(レイ・チャールズ)は、計8部門のグラミーを受けているが、これらには最優秀エンジニア・アルバムや最優秀サラウンド・サウンド・アルバムが含まれ、ここでもレイ自身の受賞数となると5つだ。”誰それがいくつを獲得”という言い方には、ちょっと注意が要り、誤解を招く可能性がある。
 
 今回、主要4部門すべてに名を連ね、圧巻の存在感を示しているのがサム・スミス。第23回(80年度)でのクリストファー・クロス以来、史上2人目となる(一度のセレモニーでの)奇跡の完全独占を、私は予想する(本稿の執筆は2015年1月26日)。根拠は、すいません、あんまりなくて、そんなことになるとスリリングだなあというくらいのものなのだが。なお、ノラ・ジョーンズも主要4つ同時獲得風だけど、事実誤認なのは先述の通り。
 おもしろいのは、第54回(11年度)で主要3部門を獲ったアデルは、第51回(08年度)にデビュー作『19』が評価され、すでに最優秀新人に選出されており、主要4部門を時差獲得していることかな。これも、そうとう難しい偉業だろう。
 
 つらつら綴ってきて、私がグラミーの結果を耳にして特別強く印象に残ったのは、いつの何だったかを思い返してみた。あった。グラミーの歴史で一度しか起こってないことのひとつ。え、ミリ・ヴァニリ? 受賞後に当人たちがレコーディングに参加していなかったことが発覚し剥奪されて、最優秀新人が空席となった第32回(89年度)の? いえいえ、それも一度しか起こってないけど、忘れられないのは第20回(77年度)のソング部門。まだグラミーのことを知って間もないころだ。
 輝いたのはまず、デビー・ブーンが歌った「恋するデビー」(作者ジョー・ブルックスが受賞)。その曲の10週連続第1位という現象は、全米チャートを聞き出してから初めて遭遇するびっくり体験だったので、とても興奮した。けど実は曲の魅力にすぐには気づけなくて、当時私はこう思っていた。”ちょっと暗い歌だなあ”。それが選ばれた。
 あ、肝心なのは「恋するデビー」のグラミー最優秀ソング受賞ではなく、”まず”としたように、この年は得票がまったく同数となり2曲が選ばれたのだった。私の記憶ではグラミー史上この一度だけのはず。77年の時点で、すでに歌手/女優として破格の業績を挙げていたバーブラ・ストライサンドが、ほとんど初めて自ら作者のひとりとして名を連ねた。
 
 そんな楽曲が主演映画から全米No.1ヒットとなり、共作のポール・ウィリアムスといっしょに最優秀ソングの作者としてグラミーを受けたのだった。美しく瑞々しく麗しい、その曲が大好きだった。「恋するデビー」とのダブル選出であっても、いやむしろそんな希有な事態であったからこそ、その曲がもっとも優れた曲に選ばれた事実は、強烈な印象と得難い喜びと共に記憶に刻み込まれている。そう、「スター誕生の愛のテーマ Love Theme From “A Star Is Born”」はタイトル通り、忘れじの”Evergreen”となった。
 

グラミー賞候補曲コンピレーション
毎年編集されるグラミー賞候補曲コンピレーション。
今回はソニー ミュージックから発売。
多岐にわたる分野のノミネーションが選曲されていて、便利でお得。
タイトルは賞の発表年。
実際は1年前=2014年度の作品が対象なので注意。

(2015.01.30)

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