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第10回 ある日のスタジオから エピソード2~「星影のバラード」の謎  <前編:モア・ザン・アイ・キャン・セイ>

「More Than I Can Say/星影のバラード」収録
レオ・セイヤーの通算9枚目のアルバム 『リビング・イン・ア・ファンタジー』
(インペリアル・レコード)

 「More Than I Can Say」という曲がある。日本ではレオ・セイヤーのヒットとして馴染み深いかもしれない。担当番組『洋楽ヒット・グラフィティー』(NHK-FM「ミュージックプラザ」の木曜日16:00から放送)で2014年3月20日に”バラードの洋楽ヒット”なる特集を企画した際、多くのリクエストに応えて紹介している。バラード調だし何よりもその邦題が「星影のバラード」だからだ。それを機に「More Than I Can Say」について少々調べてみた。

 レオ・セイヤーはイギリスから登場して、”次のエルトン・ジョン”的なシンガーソングライターのイメージで足がかりを作り、77年に「恋の魔法使い」「はるかなる想い」が連続全米No.1となってスターの座を射止めた。その勢いが衰えてきたときに発表した「More Than I Can Say」は、80年12月6日付けの全米チャートで第1位の「レイディー」(ケニー・ロジャース)に次ぐ場所に到達し、3週王座を阻まれると12月27日付けで、その月8日に悲劇的な最期を遂げて全世界に衝撃を伝えた男性の最新曲におい越される。ジョン・レノンの「スターティング・オーヴァー」だ。この結果「More Than I Can Say」は記録の上で5週間の全米第2位となっている。

 「More Than I Can Say」について触れる際に、それがレオのオリジナルではなく、61年にボビー・ヴィーがヒットさせたもののカヴァーだとしてきた。そちらの全米チャートは第61位とそれほど大したことはなかったが、イギリスでは第4位を記録しているので前出の番組でも”(13歳くらいで)それを聞いたレオがほぼ20年後に取り上げて”というコメントをしている。レオがカヴァーしたのは、たしかに少年の頃、耳にしたのかもしれないが、もう少し具体的なきっかけがあった。
 アルバム『リビング・イン・ア・ファンタジー』を制作していたレオとプロデューサーのアラン・ターニーは、すべての曲を揃え終えたものの、何か特別な作品がもうひとつ必要だと感じていたところ、ちょうどランチ・タイムにいっしょに観ていたTVでボビー・ヴィーのベスト盤のCMが流れ、そのとき耳にしたのが「More Than I Can Say」だった。彼らはレコード店に駆け込みそれを入手すると、すぐにスタジオに引き返し、ターニー=スペンサー・バンドの僚友だったトレヴァー・スペンサーがドラムスを、そして残りすべてをアランが演奏して、その日の真夜中にはレオのヴァージョンが完成したという。
 こうした閃きはだいたい功を奏するものなのか、「More Than I Can Say」はレオ・セイヤーの味わい深いヴォーカル・ナンバーとして新たな生命を得ることになった。サウンドはもちろんコンテンポラリーな色合いを伴っているものの、メロディーに漂うノスタルジックな感覚は、やはりオールディーズに通じる魅力を放っている。
 それにまさしくぴったりだったのが、邦題だ。私はそれを最初に耳にしたときから、ボビー・ヴィーが61年に歌った際につけられたものをそのまま用いているのであり、おそらく「星影のワルツ」になぞらえたのだろうと勝手に思っていた。ところが、千昌夫のヒット「星影のワルツ」はもっと後の66年だった。では、「星影のワルツ」とボビー・ヴィーの「星影のバラード」は偶然の一致なのだろうか。いや、そうではなく、そもそもボビー・ヴィーの「More Than I Can Say」が61年に日本で「ラバー・ボール」のシングルB面で出たときについていたのは、原題をそのままカタカナ表記した「モア・ザン・アイ・キャン・セイ」という邦題だったのだ。

 それではレオ・セイヤーが「More Than I Can Say」を歌ったときにつけられた「星影のバラード」は、いったいどこから来たのであろうか?

<後編:星影の散歩道>につづく

(2014.6.16)

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