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シェルパ斉藤の"ニッポンの良心"

その十九「わたしは良心くんになりたい」

 バックパッキングの講演をしてもらいたい、とマツダの労働組合に頼まれて広島へ出かけた。
 広島といえば、カープ女子だ。広島まで行くのならマツダスタジアムで広島カープの試合を観戦したい。真っ赤に染まるマツダスタジアムに良心くんを連れていけば、カープ女子にもきっとウケるはずだ。なんなら良心くんにカープの赤い帽子を被せようかな、などと考えて、講演の前日に広島に入ったのだが、残念ながら雨天でその日の野球の試合は中止になってしまった。
 ホテルにチェックインしてのんびり過ごすことにしたのだが、ベッドに横になってふと外を見ると雨が止んでいた。雲の流れが早く、急速に回復しつつある。野球は無理でも、この天気なら良心くんを外へ連れ出せる。
 そうだ。広島といえば、原爆ドームじゃないか。いつも祈りのポーズをしている良心くんにぴったりの場所じゃないか。
 僕は良心くんをデイパックに入れて、広島駅前から路面電車に乗った。
 路面電車は文化的都市生活を象徴しているように思う。日本に限らず、世界的に見ても、路面電車のある街は文化の香りがする。地下鉄よりもゆっくりと進む速度がいいし、窓から街の景色を眺められるのもいい。
 乗客たちの広島弁に耳を傾けているうちに、原爆ドーム前に到着した。
 原爆ドームは初めてではない。何度か来ているはずだが、この姿を目の前にすると新鮮な気持ちになる。襟を正す気になるのだ。
 僕は良心くんを出して、原爆ドームを向かせた。そして良心くんとともに黙祷を捧げた。

良心くん

 想像しよう。一瞬にして街が消滅して、多くの命が奪われたあの夏の日の惨状を。
 原爆ドームは想像力の羅針盤だ。この姿を見て、僕らはここで起きた悲劇に思いを馳せなくてはならない。

良心くん
良心くん

 原爆ドームの周囲は時がゆっくりと流れるように感じる。僕は良心くんとともに、平和公園一帯をのんびりと散歩した。そして平和について、戦争について思いを巡らせた。
 良心くんの旅からは離れてしまうが、この機会に書きとめておきたい。
 戦後70年の節目。日本は大きく揺れ動いている。安保関連法案が成立して、集団的自衛権行使を容認する方向へ舵をとってしまった。
 法律は時代を反映する鑑だ。世の中の動きに合わせて変わっていかなくてはならない。でも、この法案に関しては断固反対する。
 たとえばアメリカが他国から攻撃を受けた場合、日本も一緒に戦わなくてはならなくなる。公然と人を殺害する恐ろしい戦争に間接的とはいえ、日本は巻き込まれることになったのだ。それでいいわけがない。
 そもそも人間は戦争をしてしまう生き物なのだ。戦争が起きなかった時代は過去にないし、現在も地球のどこかで戦争は続いている。
 残念ながら戦争は人間の本能なのである。だからこそ、戦争を起こさせないための縛りが必要なのだ。窮屈に感じるくらいの縛りがないと、人間は愚か者だから戦争を起こしてしまう。その縛りとして日本国憲法第九条が存在している。絶対的縛りである第九条を揺るがしかねない法律の改正はあってはならないとは僕は考えている。
 だいたいから、武力や核の保有で戦争抑止力を保とうという考えには無理がある。CMにも使われている相田みつをの『セトモノ』という詩が本質を語っている。
「セトモノとセトモノと ぶつかりっこするとすぐこわれちゃう」と。
 具体的に想像してみよう。良好な関係にあった隣の家が、ある日突然銃を購入して「お宅とは仲がいいけど、おかしなことをしたら撃ちますからね」と宣言したら、隣の家に対してどんな感情が芽生えるか? 不信感と警戒心を抱くはずである。だったらうちも銃を買っておこうと行動を起こすかもしれない。それを知った隣の家は脅威をおぼえ、より強力な武器を保有する。するとまた隣の家はさらに強力な武器を……というようにエスカレートして歯止めが効かなくなり、最後は破滅を迎えるだろう。
 ではどうすれば平和が保たれるか。
 相田みつをの『セトモノ』も語っている。
「どっちか やわらかければ だいじょうぶ」だと。
 つまり、良心くんなのである。
 僕らが持つべきは武器なんかじゃない。良心くんの微笑みと寛大な心なのである。威嚇されたときも、強大な力に襲われそうになったときも、僕らは良心くんのように微笑むべきなのだ。

良心くん
良心くん

 良心くんとともに平和公園を歩いていたら、勇気が湧いてきた。無理な話かもしれない。夢かもしれない。でも、良心くんのスタンスで生きていきたい、人とつきあっていきたいと思えるようになった。
 そしてその考えに確信を持たせてくれるかのように、天気もすっかり回復した。夕焼けが平和公園を赤く照らしはじめた。
 その夕焼けは神々しいほどに美しかった。自分の主張に自信を持てる美しさだった。
 夕陽に映える平和公園の空に向かって、良心くんのように祈りを捧げた。
 わたしは良心くんになりたい。
 これからそれを目標に生きていこう。

良心くん
良心くん

photos by sherpa saito

*観光サイト「ひろしまナビゲーター」
 http://www.hiroshima-navi.or.jp/sightseeing/shizen_koen/koen/4723.php

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